DANASSバックナンバー

心揺さぶるいにしえの技

(前回からの続き)

ある日、陶芸の師匠からろくろで形成し終わった粘土の器を手渡され、一言。

「この器に縄文の模様を膨ってみたら?」。私にとって、それはとてもワクワクすることでした。

一朝一夕で作れるわけもないことは、縄文の資料とにらめっこをしながら作り始めてすぐにわかりました。

複雑な模様に目が回りそうになります。どこまでも続く線、平面の上で凹凸が踊るように半立体を作り上げつつ、無秩序ではないバランスの良さ。そしてまた思うのです。「縄文人、すごい!」。

ようやく完成させた時、未熟ながらもこの手で縄文を作り出す作業や達成感はこの上ない喜びに満ちていました。

遊び心と技術力。きっと、縄文人の末裔である日本人の私にもそのスピリッツがあるはず…・・。その感覚を呼び寄せるように日々作陶をしています。

今年になって、3年ぶりに縄文土器風の器を作りました。あの頃のワクワク感はそのままに、少しだけ気づきが追加されました。

遊び心と、適当は違う。そこには確固たる軸と丁寧さがあります。

力を抜くことと、手を抜くことは違う。それは面倒を超えたワンランク先の世界です。

一切の妥協がなく、プロとしての仕事の息づかいを感じる縄文土器。私にとっては、私が大切にしたい感覚に還るための指南書のような存在なのです。

左が3年前に制作した火焔式土器風で、右が今年制作した猫のニャ焔式土器風

【月刊DANASS No.216(2021年11月号)掲載】

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